ナイフ。

http://d.hatena.ne.jp/another/20040129#p2

「斬って捨てる」という表現にはhttp://d.hatena.ne.jp/mitty/20031002という個人的な思い入れがあるのでした。

ゼロサムな状況下で自分の取り分を増やすために「ナイフ」を用いるのは仕方ない部分がありますが、ゼロサムの取り合いを超えて、そのパイ自体を増やしてしまうことに「ナイフ」が使えたら素敵なことだとは思いませんか。

これだけではちょっと意味不明なので、次のような話を考えてみてください。

梶井厚志戦略頭脳』(http://www.kier.kyoto-u.ac.jp/~kajii/senryakuzunou.htm)より

新人社員研修で使われるゲームに次のようなものがある。
ルールとしては、2人で向き合い、それぞれが赤と黒のカードを持っていて、お互いに出し合う。両方とも赤を出すと、プラス2点。両方とも黒だとマイナス2点。片方が赤で、片方が黒の場合は、黒を出したほうがプラス1点となる。そこで、「どれを出せば勝てるのか」というゲームだ。

新入社員たちは、まず、一様に目の前にいる相手に勝とうと奮闘する。その場合、黒を出しておけば、必ず相手よりも優位に立てることを発見し、お互いに黒しか出さなくなる。そこで、「誰が相手に勝てと言いましたか?」というような一言を告げてあげると、自分たちがとってきた行動が相対水準であり、対戦相手と協力することによって、絶対的な水準というのが上げられることに気づかされる。つまり、彼らはゲームのルールを完全に理解していないがゆえに、目的を誤解し、両方とも赤を出し合うほうが、絶対的な点数は高くなる戦略であることに気がつかないのだ。

このゲームでも、もしも共同利益を最大化することが求められているのならば、2人で相談して赤を出すことに合意することはたやすい。相手が赤を出しているときに、抜け駆けして黒を出せば確かに自己の利益は増える。しかし、両者の目的が行動利益の最大化であれば、そのような行動をとるインセンティブは生じない。大切なのは、「赤を出そう」ということを初めから持ち出すのではなく、共同の利益を出来るだけ増やそう、ということに合意することだ。そこが合意できさえすれば、戦略環境はWin-Win環境である。両方とも、おのずから赤を出し合うであろう。つまり、共通の利益を増やそう、というルールを提案するのが、この場合のWin-Win戦略だ。

先日の「斬って捨てる」というのは、「自分だけ黒を出す」ことに相当します。本来の目的は関係者すべての利益というところにあるはずなのに、それが忘れ去られているのです。本当の目的を思い出せば、「赤を出す」(=妥協点を探るなど共存の努力をする)ことはたやすいでしょう*1

yes-noの二項対立を超えて、双方が満足できるような選択肢を提示する*2

競争相手を貶めることにエネルギーを割くのではなく、そうした双方が満足できるような選択肢の創造にエネルギーを割くことが真に尊いことだと思います。

ところで、今回のアフタヌーンの『ラブロマ』は、意識して「不真面目」になろうとする星野くんのお話でした。

わたし自身も、星野くん的な潔癖さが抜けきらず、いらぬところで人を傷つけてしまうので、もっとおおらかに人を受け入れていけるようになりたいものだと思いました。そして、それはWin-Win戦略を考えることで実行可能なのかもしれません。

*1:高橋伸夫虚妄の成果主義―日本型年功制復活のススメ』第4章「未来の持つ力を引き出す」にも、ほぼ同様の趣旨の記述が見られます。企業経営における終身雇用制度は企業が「赤」を従業員に対して出し続けることにコミットしていることに他ならず、その結果従業員からより強力な忠誠と成果を引き出すことが出来るのだ、という話につながります。

*2:現実問題、それはとても厳しいことです。そうした選択肢が存在するのであれば、そもそも問題自体が生じていないともいえるからです。