格付けに関するあれこれ。

http://d.hatena.ne.jp/rain1/20030926#p3

海外の例はさておくとして、日本では歴史的経緯*1から、格付けの必要が無いという状態が長く続いたため、ほとんど空白の研究領域でした。

しかし、近年、小林(2001)や安川氏の一連の著作により、空白領域がだいぶ埋まってしまいました。したがって、よほど新奇なことをしない限りいわゆる「貢献」とは見なされないでしょうね。

部分的に解決済みの論点としては、

  • 高位格付けと低位格付けでは回帰係数(ウェイト)が異なるのではないか?→比例性の仮定を緩める→安川氏のnon-propotional sequential logit modelにより部分的に解決
  • ある期間の特定の財務指標に関するウェイトは一定のままか?→パネルデータ分析により係数の変化を離散時点で捉える→安川氏により解決済み。ただし、係数の変化を連続的に捉える事はまだできていない。
  • プラスに働くcovariateでも量に応じてウェイトが変化したりしないのか*2?→線形性の仮定を緩める→安川氏のGAMにより部分的に解決済み。
  • サンプルセレクション問題(格付けを公表するのは、自分が満足行く格付けが取れたときだけ→高めのバイアスがかかる)→Moon and Stotsky(1993)および安川(2001)により提案済み。

などがあります。

というわけで、かなりの論点が尽くされてしまったぽいですね。単なるロジットでは、さすがに師匠を納得させられないでしょう?

ただし、安川氏の一連の著作は順序ロジットもしくは逐次ロジットの枠内にとどまるものなので、多項ロジットでやれば別の結果が得られる可能性があります。

今ひとつのアプローチとしては、ロジット→プロビットにするということです。ただし、プロビットを使うと多変量正規積分をしなければならないことに加えて、多変量正規分布の分散共分散行列も推定しなければならず、計算上の工夫が必要になるでしょう。

統計学的により高度なことをするならば、例えば、変量効果多項ロジットなどを採用すればまったく新しい知見が得られる可能性があります。

ちなみに、多項ロジットならTSPで実行可能なので、それが妥当な回答になりうるでしょうね。他にもやり方はいくつかあります。というわけで、自分の論文に使うところは秘匿しましたが、勘弁して下さいな。

蛇足ながら、現在の日本にかけているのはこの安川さん*3のように実務と学問を繋ぐ領域のようです。50万人のブロガ−などといわず、社会人大学院による社会人再教育というのは無視できない効用を日本社会にもたらすのではないでしょうか?

*1:1920-30年代にデフォルトが相次いだという経験から、よほど信用力が無ければ社債自体を発行できなくなった。それが金融行政の緩和まで続く。

*2:自己資本比率は高いほうが良いけれど、高すぎると租税公課の関係上、財務的に非効率になる。

*3:中央青山PWC在籍