稲垣・数理統計学

大学院進学を考える学部生に特に勧められる数理統計学の教科書。
測度論に基づく高度な数学を要求せず、大学教養レベルの線形代数微分積分の知識で読みこなせるにも関わらず、広いトピックを扱っていると言う点は高く評価されてよい。確率変数と確率分布を取り扱う第一部、統計的推測を扱う第二部、主に回帰分析を扱う第三部、からなり、応用上どの分野においても用いられるであろう基礎的なトピックを一冊でほぼすべてカバーしている。さらに、式展開が詳細になされており、一人で読み進めてもつまることはほとんどないと思われるくらい親切な書き方である。また、章末問題には解答が付属し、自分の理解を確かめながら進むことができる。惜しむらくは、十分統計量・ノンパラメトリクス・ベイズ法に関する記述がないことがあげられる。これらは、Hogg&Craig"Introduction to Mathematical Statistics"に詳細な記述があるため相互補完的に用いるとよいだろう。
事実上、学部レベルの統計学の到達点となる一冊。この本を終えれば、大学院レベルの統計学の教科書であるTPE(Lehmann&Casella"Theory of Point Estimation")やTSH(Lehmann"Testing Statistical Hypotheses ")にスムーズに移行できるはずである。