『ひとりひとりこころを育てる』(メル・レヴィーン著)
Doodleの中の人はいみじくも「個性化によるブス領域の減少」を指摘した。従来ならば、「ブス」の範疇に入るとされていたものが個性化によりXX美人として受け入れられるようになった、というのは、興味深い現象である。なぜならば、当人は全く変わっていないにもかかわらず、周りの見方が変わることにより「ブス→XX美人」という昇格を果たしているからである。
この本は「個性化によるおちこぼれ領域の減少」を目指す本である。
というと、言いすぎであろうか。我々は「落ちこぼれ」の判断基準を勉強の出来るできないに置くことが多い。このことは多くの子供を苦しめてきた。しかし、勉強の中身を細分化して「落ちこぼれ」を判断することにより、ある子供を「出来ない子だ」と断じてしまうことは格段に減る。
著者は、子供の精神発達プロファイルを8つに細分化する。
- 注意制御システム
- 記憶システム
- 言語システム
- 空間秩序システム
- 順序システム
- 運動システム
- 高次思考システム
- 社会的思考システム
このように細分化してみると、この8つの能力が「すべて」申し分ない、という子供はほとんど居ないことが分かる。逆に、この8つの能力が「すべて」劣っている、という子供もほとんど居ない事が分かるだろう。
学校で「落ちこぼれ」と言われやすいのは、このうちの注意制御システムや記憶システムに問題がある子供が多い。しかし、わたしの経験では、そのような子供は往々にして運動システムや社会的思考システムにすぐれていることが多いような印象を受ける。8つのうちのたった2つを問題にして、誰かを「おちこぼれ」と断ずることのなんと意味の無いことか!
初めの2章でこうした見取り図を示した後、続く各章では8つに分類したシステムをさらに細分化し、どうやったらその能力を適切に伸ばすことができるかが示される。指導の内容は細かく具体的であり、150人近い臨床例が挙げられていることも、評価に値するポイントである。
現在の学校では、ひとりひとりに合わせた授業を展開することは不可能に近い。しかし、この本が訴えることは、個人差を考慮しない教育システムは危険ですらある、ということである*1。
学校を「ひとりひとりこころを育てる」場として期待するのは、現状では無理がある。そうなると家庭での自衛が肝要であろう。
子を持つ親のみならず、学校教育に関心のある人は必読の文献である。
関連メモ:http://d.hatena.ne.jp/mitty/20031119#p1
(追記)
読んでいると、自分の中にある機能不全症を指摘されたような気もする。子供の頃に苦手であったことが大人になっても影を落としていることに気づき、心が痛む。本書は、大人が人生のある面をやりなおすための教育書にもなるだろう。
臨床例が具体的なので、幼少期のトラウマを刺激される人もいるかもしれません。さらにもっと恐ろしいのは、「その欠点がいまだ自分の中にある」と気づいてしまうことでしょうね。
特に、
- 高次思考システム
- 社会的思考システム
の二点は、年齢を重ねるにしたがってトップとボトムの差がどんどん開いていっているように感じます。
自らを省みるために読むのもまた面白い読み方だと思いますよ。