マルコフ連鎖モンテカルロ法。

マルコフ連鎖モンテカルロ法は、近年統計物理学の分野から統計学の文脈に輸入され目覚しい成果をあげている手法である。マルコフ連鎖モンテカルロ法とは、マルコフ連鎖サンプリングを用いて発生した乱数を用いてモンテカルロ積分を行う方法の総称である。

マルコフ連鎖モンテカルロ法は通常ベイズ統計学の枠組みにおいて用いられる。そして、MCMCベイズ統計学に革命的な変化をもたらした。ベイズ統計学は理論的には頻度主義に立脚した通常の統計学より優れている面が多々ある。しかしながら、計算可能性の問題からある程度以上に複雑なモデルになると実装が不可能である、という欠点を抱えていた。その欠点はマルコフ連鎖モンテカルロ法の出現によりほぼ克服され、ベイズ統計学の適用範囲はいまやすばらしく広がったといえよう。

通常、統計学ではサンプルはランダムにとるべきとされる。しかしながら、マルコフ連鎖サンプリングでは一期前の値に依存して今期の値をサンプリングするという点が異なる。たとえば、アルファベット26文字を用いてサンプリングすることを考えよう。ランダム・サンプリングではアルファベットがそれこそランダムに現れる。ここで、「一期前のアルファベットの二つ前か二つ後の文字を確率二分の一でとる」というマルコフ連鎖サンプリングを考えよう。先ほどのランダムなsequenceとは全く異なる系列が得られるはずである。

実は、一定の条件下でマルコフ連鎖は均衡分布を持つことが知られている。では、任意の分布をこの「均衡分布」として得ることはできないだろうか?それを可能にするのが、マルコフ連鎖サンプリングのアルゴリズム(ギブス・サンプラーおよびM-Hアルゴリズム)なのである。

我々は周辺分布を求める際に積分を評価する必要がある。しかし、多次元の数値積分は計算負荷の割に近似精度が非常に悪いことで知られており、代替的な手法が求められていた。それを可能にしたのがモンテカルロ積分である。